十五夜月必ずしも満月ならず
はじめに
よく, 満月は十五夜月・望月で, 翌晩は十六夜月・既望, 前晩は十四夜月・幾望に当たるという話を聞きます. 実際にそのように認識されている方も多いのではないでしょうか.
日本の国立天文台が「名月必ずしも満月ならず」で示すように, 十五夜月が必ずしも満月と一致するとは限りません. 今回は満月が十五夜からずれる原因を説明し, 見られた満月の実例など, 詳しいところに踏み込んでまいります.
使用した天体暦は NASA JPL のDE440, 地球の自転項を補正するΔTは, Stephenson, Morrison & Hohenkerk (2016, 2021) 及び IERS の finals2000A.all によるものです (Python の Skyfield と同じ手法).
対象とした期間は西暦1583年から西暦2649年までの1067年間であり, 1971年以前は UT1+09:00 (上述のΔTを使用), 1972年以降は UTC+09:00 です. 2027年前半にもうるう秒廃止の方針があり, 新月・満月の時刻 (UT1+09:00 ではなく UTC+09:00) に関する不確実性が殆ど無くなる見通しです.
そもそも旧暦って何?
旧暦とは, 太陰太陽暦のことです. 太陰とは, 象徴的に太陽と対になる天体, つまり月です. 新月の瞬間 (月齢0.0日) を含む日 (00:00~24:00) を旧暦01日とし, 日毎に逐次通し番号を付けるものです. 次の新月の暦日を迎えた段階で旧暦の暦月を1つ進め, 暦日は旧暦01日に戻ります.
太陰暦の12か月と太陽暦の1年は一致しないため, 適宜閏月を挿入して調整を行います. ところが, 十五夜月は太陰暦で毎月現れるため, 今回は暦月について考える必要はありません.
日本での最後の公的な太陰太陽暦「天保暦」に基づいて, 現代天文学 (特に, DE440天体暦を含む諸数値データ) を用いて再構成した暦を旧暦と呼びます.
西暦1600年の太陰太陽暦は現在の手法とは異なっていましたが, 本記事ではそれも含めて現代の手法を遡及適用していることにご注意ください.
満月はなぜ十五夜とは限らないの?
新月の時刻の違い

旧暦01日における新月の瞬間と, 満月の時刻の関係 (簡易版)
旧暦の定義上, 新月は必ず旧暦01日に位置します. 月の満ち欠けの周期が約29.53日ですから, 新月から満月までの期間はその半分, つまり平均14.76日程度です. 新月が旧暦01日の12時の場合, 満月はその14.76日後, 旧暦16日の06時20分頃となります. つまり, 旧暦15日から外れてしまいます. ただ, 旧暦15日の夜を介した夜明けに当たり, 十五夜の終わりころの満月とみなせます.
また, 新月が旧暦01日の何時頃に当たるかによって, 満月の暦日が変わります. 新月が旧暦01日の00時直後の場合, 満月はその約14.76日後, 旧暦15日の18時20分頃となります. この場合, 十五夜月と満月が一致します. 一方で, 新月が旧暦01日の24時直前の場合, 満月はその約14.76日後, 旧暦16日の18時20分頃となります. この場合は十六夜月が満月となります.
ここまでは新月が旧暦01日の何時かによって暦日が変わる見かけの問題で, 月の動き自体は同じものです. しかし, 現実には月の軌道変化を考慮する必要があり, それが本質的な要因となります.
月の軌道の変化
月の軌道は真ん丸ではなく, 少し歪んだ楕円に近い形をしています. そのため, 月と地球が近い所では月が速く進み, 遠い所では遅く進みます.

中央が地球, 新月から満月まで (月が太線上を反時計回り) の時間が最も短いケース (太線<点線)
新月から次の満月になるまでに月が近い所を通る場合, 新月から満月になるまでの時間は短くなり, 早いときで約13.90日です.
統計期間 (西暦1583年から西暦2649年) 内では, 新月から満月までが最も短いケース (13日21時間38分41秒 ≒ 13.901日) は以下の通りです.
| 最短 | 西暦日付 | 時刻 (UT) |
|---|---|---|
| 新月 | 2312年07月05日 | 18時00分19秒 |
| 満月 | 2312年07月19日 | 15時39分00秒 |

中央が地球, 新月から満月まで (月が太線上を反時計回り) の時間が最も長いケース (太線>点線)
新月から次の満月になるまでに月が遠い所を通る場合, 新月から満月になるまでの時間は長くなり, 遅いときで約15.61日です.
統計期間 (西暦1583年から西暦2649年) 内では, 新月から満月までが最も長いケース (15日14時間42分53秒 ≒ 15.613日) は以下の通りです.
| 最長 | 西暦日付 | 時刻 (UT) |
|---|---|---|
| 新月 | 2391年12月26日 | 10時46分44秒 |
| 満月 | 2392年01月11日 | 01時29分37秒 |
月の軌道の変化を考慮した満月の暦日

旧暦01日における新月の瞬間と, 満月の時刻の関係 (現実版)
満月の暦日が最も早くなるパターンは, 新月が旧暦01日の00時直後且つ, 新月から満月までが約13.90日のケースです. この場合, 満月は旧暦14日の21時40分頃になります. 旧暦14日の宵の十四夜月が満月となります.
満月の暦日が最も遅くなるパターンは, 新月が旧暦01日の24時直前且つ, 新月から満月までが約15.61日のケースです. この場合, 満月は旧暦17日の14時40分頃になります. 旧暦17日の夕方に昇る十七夜月が最も満月に近いですが, 十七夜月が見える時間帯に満月を迎えることはありません.
したがって, 満月を含み得る時間帯は, 旧暦14日21時40分頃 (十四夜) から, 旧暦17日14時40分頃 (十七夜に近い) までです.
満月の日付は実際にはどう分布するの?
西暦1583年から西暦2649年までに現れる満月は13197回です. その中で, 満月が分布した旧暦の暦日 (14, 15, 16, 17日) の割合は以下の通りです.
| 旧暦 | 回数 | 割合 |
|---|---|---|
| 14日 | 59 | 0.45% |
| 15日 | 4974 | 37.69% |
| 16日 | 6179 | 46.82% |
| 17日 | 1985 | 15.04% |
| 合計 | 13197 | 100.00% |
旧暦14日が最も少なく, 旧暦16日が最頻となっています.
さらに詳しく, 3時間ごとの区間別では以下の通りです.
| 旧暦\時間帯 | 00-03 | 03-06 | 06-09 | 09-12 | 12-15 | 15-18 | 18-21 | 21-24 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 14日 | 59 | |||||||
| 15日 | 269 | 410 | 508 | 620 | 673 | 782 | 839 | 873 |
| 16日 | 772 | 691 | 698 | 774 | 828 | 886 | 848 | 682 |
| 17日 | 639 | 522 | 431 | 311 | 82 |
旧暦15日と16日の夜 (18時-24時頃) の2か所が最頻であることが分かります. 十五夜が満月とは限りませんが, 十五夜や十六夜に満月を鑑賞できる機会は非常に多いと言えます.
実例を見てみよう!
以下では, 実際に見られた, 各旧暦日付に対応する満月を見ていきます. 旧暦の日付は日本基準となります.
旧暦15日宵の満月

撮影情報 (1 件) ▼

2024年10月17日 (旧暦09月15日) 宵の満月
旧暦15日の宵, つまり十五夜の満月は, 最も受け入れやすいでしょう.
中秋の名月に限れば, 順番に2022年09月10日や2023年09月29日, 2032年09月19日の夜です. 旧暦16日の未明まで許すなら, 2028年10月03日や2029年09月22日の夜も当てはまります.
旧暦15日宵の満月 (注意)

撮影情報 (1 件) ▼

2026年03月03日 (旧暦01月15日) 宵の満月 (皆既月食)
こちらも旧暦15日の宵が満月でしたが, 実態は月齢14日を割り込む (約13.984日) 平均より約1日も若い満月でした.
新月が21時過ぎと遅かったため十五夜の満月に擬態しただけですが, 天文学的には後述の旧暦14日の満月と同じ類です.
宣明暦では, 進朔により, 宣明暦14日宵の十四夜月となります.
中秋の名月に限れば, 全国的に晴れて満月と重なったと話題になった2013年09月19日の夜も, 満月の月齢が14日をわずかに下回ってしまいました.
旧暦15日朝の満月

撮影情報 (1 件) ▼

2025年01月14日 (旧暦12月15日) 朝の満月
旧暦15日の朝の満月は, 暦日としては普通ですが, 少し毛色が異なります. 実態は旧暦14日の夕方に昇り, 旧暦15日の朝に沈む月であるため, 十五夜月ではなく十四夜月です.
2023年の次に中秋の名月と満月が重なる例として2030年09月12日が頻繁に引用されていますが, 満月の時刻は 06:17:56, つまり旧暦15日の朝です. これは旧暦15日の前日の夜に最も丸い月が見える, ややこしい例と言えるでしょう.
旧暦16日宵の満月

撮影情報 (1 件) ▼

2026年07月29日 (旧暦06月16日) 宵の満月
旧暦16日の宵に現れる満月も, 天文学的にはオーソドックスです.
中秋の名月の翌晩が満月になることも当然珍しくないはずですが, 旧暦16日の夕方から夜に満月となるのは, 順番に2010年09月23日, 2035年09月17日 などと2020年代にはないようです.
旧暦17日未明の満月

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2025年09月08日 (旧暦07月17日) 未明の満月 (皆既月食)
旧暦17日の満月の多くは, 旧暦17日の未明に満月を迎えます. そのため, 実際は旧暦16日の夕方に昇った十六夜月が満月になることが殆どです.
満月が旧暦17日の正午以降となった場合に限り, 十七夜月が満月に近くなります.
中秋の名月の翌晩が満月になる場合の一部はこのパターンです. 例えば2026年09月27日未明の満月は, 2026年09月26日の夜の満月です.
旧暦14日宵の満月

撮影情報 (1 件) ▼

2012年08月31日 (旧暦07月14日) 宵の満月
旧暦14日の満月は極めて珍しいです. 新月の瞬間が01日の最も早い時間帯に起こり, なおかつ新月から満月までの時間が14日を割り込まなければなりません.
中秋の名月の前日に限れば, 国立天文台の案内がある1600年から2199年までにおいては, 1942年09月24日 23:34:05 と2127年09月20日 23:57:12 (皆既月食) のみです.
2012年08月31日 (旧暦07月14日) は, 太陽暦月2回目の満月とも重なる貴重な例でした.
半影皆既月食と重なる 2082年08月08日 (旧暦07月14日) や, 皆既月食と重なる 2127年09月20日 (旧暦08月14日) の例が特異的であるのは言うまでもありません.
参考文献 (原語版)▼
- The JPL Planetary and Lunar Ephemerides DE440 and DE441Ryan S. Park, William M. Folkner, James G. Williams, and Dale H. Boggs公開・更新日: 2021-12-08アクセス日: 2026-01-12
- Addendum 2020 to ‘Measurement of the Earth’s rotation: 720 BC to AD 2015’L. V. Morrison, F. R. Stephenson, C. Y. Hohenkerk, M. Zawilski公開・更新日: 2021-02-17アクセス日: 2026-01-12
- IERS https data downloadIERS公開・更新日: 2026-01-08アクセス日: 2026-01-12
- 名月必ずしも満月ならず国立天文台公開・更新日: 2025-10-08アクセス日: 2025-12-08
- 意外と違う満月の日と十五夜の日(満月の月齢変化)鈴木 充広公開・更新日: 2020-08-25アクセス日: 2025-12-08







