暗かった皆既月食
はじめに

月の出, 皆既月食, 及び月の入りの経過 (49枚組, タイムスタンプ付き)
撮影情報 (49 件) ▼
2025年09月07日 (旧暦・宣明暦 07月16日) の夜は, 十六夜月・満月と皆既月食を観察することができました. 上記の図は, 2025年09月07日に観察できた皆既月食を中心に, 月の出から月の入りまでの経過を示したものです.
ただし, 暦上は2025年09月08日 (旧暦・宣明暦 07月17日) 未明を中心とした観測でした. 満月の月齢は約15.501日となり, 遅い満月の1つとなりました.
東京科学大学では2025年03月14日の半影月食以来の月食で, 2022年11月08日以来2年10か月ぶりの皆既月食でした.
東京科学大学の大岡山キャンパスで月の出を確認した後, アパートで仮眠に入って夜半過ぎの月食観察に向けて体調を整えました. レジャーシートや簡易枕も持参し, 長時間観察に伴う疲労に備えました. 水を入れて凍らせたペットボトルも3本用意し, 水分補給と三脚固定の錘 (ひもで固定) 兼用としました. 月食撮影は長時間にわたるため, 満充電のカメラバッテリーも4つ用意しました.
写真の撮影機材は超望遠コンデジの Canon PowerShot SX70 HS, 三脚のVelbon EX-440, 及びポータブル赤道儀のKenko SKYMEMO S (半影月食開始から皆既月食の終了まで) でした. 撮影はISO 100及びF6.5固定とし, シャッタースピード (以下SS) のみを変化させました. また, 可能な限り天の赤道に平行になるように撮影しました.
以下, 月の出, 部分月食開始前, 皆既月食開始前, 皆既月食中, 皆既月食終了後, 部分月食終了後, 月の入りの各章について報告を行います. メモはスマートフォン及び紙の2つの媒体に行いましたが, それを要約・加筆修正したものも示します.
カメラ内部時計と日本標準時の時刻の差は±0秒で, Exifからのオフセットはありません.
月の出
17時51分頃~19時07分頃

柿色の満月の出
撮影情報 (1 件) ▼
2025年09月07日の日中は雲の多い晴れでした. 雲の隙間から見えた青空は澄み渡っていたものの, 月食観察への心配が残る状況でした. しかし, 17時51分頃までには雲が急激に少なくなり, 東は快晴, 西は薄曇りという天気になりました.
17時58分頃に月が雲から顔を出した際には大きく見え, 「でか!」(日本語) と脊髄反射的に声が出ました. それでも南中時よりも大きく見えるということではなく, 地球の中心と月の中心の距離が 371,100 km と近かったことが主な理由と考えられます. 低空で楕円形に歪んだ月を見た際に, 楕円の一部を勝手に円の一部だと脳内で補完したのも理由にあると考えられます.
色ははっきりとした柿色で, 比較的澄んだ秋の空気だったことが考えられます. ただし, 実際の観察環境は蒸し暑く, 決して快適とは言い切れませんでした. その後, 18時11分頃の濃い小麦色から赤みがかった黄金色に変化し, 18時14分頃にはやや赤みが取れました. 南東に紫に染まった薄雲がありましたが, 西の薄雲は少なくなっていました.
18時33分頃のTaki Plaza前では, 鈴虫の鳴き声を確認し秋の気配が感じられましたが, 空は澄みつつ蒸し暑い, 秋と夏のいずれであるかの判断に迷う環境でした. 更に19時07分頃のメモの通り, 高台で見た月よりも明るさが2倍程度になったようにも見えました.
20時37分頃~23時33分頃
20時37分頃の月は, 昨年同時期に比べると明るく, 白みがかったベージュ色でした. 20時39分頃の月光下では, 新書規格の小説の文字は判読できませんでしたが, 容易に判読できる文字とできない文字が混在した書籍もありました.
その後は3時間程度の仮眠をとり, 23時台からの月食観察に備えました. アパートの窓から差し込む月光は異様に明るく, 皮肉にも鬱陶しく感じる程度でした.

月食直前の満月
撮影情報 (1 件) ▼
満月が南中したのは23時30分過ぎでした. 月は非常に白く明るく, 冬の満月を想起させる程度でした. 2024年06月21日以来, 夏季にしては珍しく劈くような月光に再会したことになります.
食事をとり, 準備を整えた後, 再度東京科学大学の大岡山キャンパスへと向かいました.
部分月食開始前
24時43分15秒頃~25時23分00秒頃

半影月食中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
夜半過ぎも快晴に恵まれました. 殆ど全行程で雲を目視で確認できず, 25時57分50秒頃に南の空に積雲が1つと29時02分00秒頃の北西の空に薄雲が見られた程度でした.
24時43分15秒頃の記述では, 半影に入った頃の月の輝きが弱まった可能性について触れていました. しかし, 気のせいだった可能性もあります. しかし24時45分40秒頃の記述では, そのころの写真には既にもう影がいるのが判別できたと記されています.
25時00分45秒頃の記述でも同様でしたが, 肉眼ではほぼ変化がなく, 24時43分15秒頃の記述での見え方について錯覚を疑いました. しかしその約10分後, 25時10分10秒頃には, 月の左側がやや明るさが減り, 模様が見やすくなったようです. その7分後に当たる25時17分30秒頃には, 輪郭の明るさが均等でなくなったことがわかりました. この時点で部分月食の開始9分程度前に迫っていました.
25時23分00秒頃の記述によれば, 肉眼でも月に黒い影の気配が感じられました.
皆既月食開始前
25時25分15秒頃~26時22分40秒頃

部分月食中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
25時29分15秒頃の記述では, 25時25分15秒頃の欠け始めに対する記述に対して予報より2分早いと記されています. 確かに Chauvenet の手法による欠け始めの予報は25時26分47秒で, 記述の約2分後でした. 月食の各段階の境界を定めるのは困難を極めることを実感しました.
25時40分00秒頃には, 本影に隠れた月の輪郭も判別できました. 普段の皆既月食と同様, 肉眼で本影の部分が赤黒く見えたため, 火山の影響は少ないと考えました. 本影と半影の境界は微かに青みがかった暗灰色でした. これは皆既月食の合成・加工写真で多く見られるターコイズフリンジではないかと考えました. 最も, 周囲が赤くてそこだけ無彩色だった場合, 絶対的に青くはなくても青く見えたという錯覚の可能性も否めません.
25時57分50秒頃の月は食分50%程度で, 影は暗い赤色でした 当時は2022年11月08日の皆既月食より明るいと記しましたが, 皆既月食に入った段階でその予想は覆されました.
26時07分50秒頃の月は食分67%程度で, 半影 (記述では影でない部分) にある月も暗く見えるようになりました.
26時22分40秒頃に月を見た際には, 本影中心部は非常に暗く, 本影中央部のダンジョンスケールを1相当と記しました. これは2022年11月08日の皆既月食でも感じなかった暗さです.
皆既月食中
26時30分10秒頃~27時53分30秒頃

皆既月食中の満月と北西方向の恒星
撮影情報 (1 件) ▼
26時30分10秒頃に皆既月食に入りましたが, Chauvenet, Danjon, David Herald & Roger W. Sinnott はいずれも概ね一致しました. 26時40分40秒頃の月は, 肉眼で模様が分からず, 特に北西にある海 (嵐の大洋) 周辺では顕著でした. ダンジョンスケールは総合で1.5程度とみられました.
27時08分45秒頃の月はとりわけ暗く, 月の北の部分はあまりよく見えず, ダンジョンスケール1.0とみられました. 南部はそれなりに明るく, ダンジョンスケール2.5程度と見積もりました. 中央はダンジョンスケール1.5程度としました. つまり, 南北で明るさの差が大きかったことになります. 北部が暗かった影響で, 全体として満月の丸い輪郭が見えるかどうかも怪しくなりました. 27時11分48秒の食最大後に当たる27時14分15秒頃の月も変わらず暗いままでした. 撮影の際も, 露出を16秒まで伸ばしてようやく鮮やかな茜色に写りました.
27時53分30秒頃に, 27時53分10秒頃に生光 (皆既月食終了), 予報より数十秒遅れと書きました. 理論モデル (Chauvenet, Danjon, David Herald & Roger W. Sinnott) によって地球の影の大きさが変わり, 皆既月食の継続時間の計算結果などにも大きく影響します. Danjon からは18秒遅れで記述の通りの遅れ具合ですが, Chauvenet より5秒早く, David Herald & Roger W. Sinnott より11秒早かったようです.
露出が16秒と長かったため, 赤道儀の緩みや極軸合わせのずれが大きく影響しました. 皆既月食の写真がぶれるたびに緩みや方向を修正し, 撮影を続行する体制をとりました.

皆既月食中の満月と東北東方向の恒星
撮影情報 (1 件) ▼
26時50分01秒撮影の皆既月食の写真には, 明るめの恒星が月に対して北西方向に写りました. 1時間後の27時50分00秒には月の東北東に移動していました. このことから, 月が恒星を遮る恒星食が起こったと考えられます. 太陽系内の惑星食と違い, 恒星は文字通り星の数ほどあるため, 皆既月食中の恒星食は珍しくありません.
皆既月食終了後
28時03分30秒頃~28時30分40秒頃

皆既月食終了後の, 黄金に輝いた満月
撮影情報 (1 件) ▼
28時03分30秒頃に, 天文薄明開始と皆既月食終了が同時だったと書きました. しかしそれは計算上に過ぎず, 皆既月食が終わってからしばらくの間は, 空は暗いままでした. 都会の光害の影響で, 僅かな明るみがかき消された可能性が考えられます.
28時30分40秒頃には空が明るくなりつつありました. 月は低空に傾くほど大気の影響で暗く見えますが, 地球の影が同時に離れていたので, 両者が打ち消しあい, 部分月食終了時までは撮影露出時間を大きく変える必要がなかったのは興味深いものでした.
部分月食終了後
28時50分00秒頃~29時14分00秒頃

部分月食が終了した, 薄明中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
部分月食終了から5分程度経過した29時02分頃の月は黄金色に染まっており, 29時14分00秒の写真にも見られる通り, 低空に行くにつれて赤みが増していきました.
月の入り
29時15分頃~29時23分30秒頃

月没直前の歪んだ満月
撮影情報 (1 件) ▼

満月とビーナスベルトの広角写真
撮影情報 (1 件) ▼
29時15分頃の月はビーナスベルトの影響で紫まじりの橙色でした. 沈むときも, 桃色と橙色が溶け合った色で沈んでいきました. 日の出が迫っていましたが, 比較的霞まずに山に沈んでいきました. 西には秋雨前線がいたため, 透明度は多少下がっていたようです.
実際のメモ

観察メモのスクリーンショット

手書き観察メモ パート1

手書き観察メモ パート2
こちらは満月観察時の実際のメモです. 手書きの方は速筆を優先したため, 判読が困難な文字も多くなっています.
月食の予報値の比較
| \ | Model 1 | Model 2 | Model 3 |
|---|---|---|---|
| P1 | 24:26:54 | 24:28:23 | 24:28:10 |
| U1 | 25:26:47 | 25:27:06 | 25:26:54 |
| U2 | 26:30:21 | 26:30:44 | 26:30:38 |
| MX | 27:11:48 | 27:11:48 | 27:11:48 |
| U3 | 27:53:15 | 27:52:52 | 27:53:21 |
| U4 | 28:56:51 | 28:56:31 | 28:56:55 |
| P4 | 29:56:36 | 29:55:08 | 29:55:28 |
月食の段階について, UTC+09:00 (UTC = TT - 69.184 s) での予報値を比較しました. Pが半影, Uが本影, 1が該当する影に月が入り始めること, 2が該当する影に月が収まること, 3が該当する影から出始めること, 4が該当する影から出終わること, MXが食の最大です.
Model 1 は Chauvenet によるものです. 幾何的な影の半径を2%拡大させるもので, 国立天文台など各種暦に近い値です. 2025年09月当時に月食計算に用いていた Stellarium で計算しました.
Model 2 は Danjon によるもので, 幾何的な影の半径を1%拡大させるものです. 2025年09月当時に月食計算に用いていた Stellarium で計算しました.
Model 3 は David Herald & Roger W. Sinnott によるものです. 地球が扁平であることを考慮したうえで, 地球表面に有効な不透明層 h を均等に 87 km 上乗せし, 影自体は拡大させないモデルです. 食の最大時刻が食分の最大時刻と異なるのは, 影が円形でないことにより, 影の中心に最も近い瞬間と影の縁を基準に最も深い瞬間が異なるためです. 2026年05月以降に Python Skyfield で計算した値であり, Moon Logbook の月食計算の標準となっています.
2015年04月04日の月食に至っては, 皆既月食なのか部分月食なのかという議論もあったそうですが, 目視では部分月食と報告されているようです.
David Herald & Roger W. Sinnott の手法であれば, 有効な不透明層の厚さ h を変えるだけで再計算できます. 以下が議論中に出てきた結果をまとめた表です.
| \ | Mo | Me | Avg. |
|---|---|---|---|
| h | 78 km | 85 km | 87 km |
| M | 0.999 | 1.001 | 1.002 |
David Herald & Roger W. Sinnott 法では, 月食計算時における不確定要素が有効な不透明層の厚さ h と言う1変数のみに集約されました. 従って, Chauvenet や Danjon に比べて議論がしやすいと考えられます.
おわりに
当初は本州で雨予報でしたが, 09月01日頃に大幅修正され, 晴れ間が出る予報に変わりました. しかも, 日が進むにつれてより晴れる予報に変わりました. 当日は奇跡的な快晴の下で, 月の出以降は一瞬たりとも雲に遮られずに満月を観察することができました. 日本の気象庁のデータによると, 東京都東京での雲量が, 09月07日の21時と27時の両方で 0 (雲無し) でした. これは09月07日としては1961年以降では前例が全くない, 極めて稀にみる好条件だったことになります. 秋雨前線や台風の影響を受けやすいこの時期に, 透明度が高く, ほぼ無風且つ快晴の環境に恵まれたことは奇跡といえます.
09月04日から05日にかけて台風15号 (PEIPAH) が列島太平洋側を縦断し, 09月05日の夜から台風一過で澄んだ空となりました. 09月08日の朝頃に秋雨前線が南下し, 空に水蒸気が再び供給され始めるまでは, 異例の澄んだ空が続いたと考えられます. 流石に冬の最も透明度の高い条件には及ばずとも, 秋雨の時期としては恵まれた方といっても過言ではありません.
それでも, 09月07日の地上は蒸し暑くなりました. 日中に積雲が多かったのも, 地上に滞留した湿った空気が日射で熱せられたと考えれば説明できます.
一方で, 2023年10月28日の部分月食は, 10月として前代未聞の秋晴れ続きだった中, ピンポイントで見事に雨に降られました. 腕時計も故障中で大学祭の設営とも重なり, 心身の状態もスケジュールも稀に見る最悪の条件でした. 2025年09月07日の皆既月食は, 人生の大きな節目と重なり動揺もありましたが, スケジュールの隙間を狙って, 長時間の観測を遂行することができました.
しかし, 月食は永遠には続きません. 月食の次の晩からは徐々にかけ始め, 満ち欠けを繰り返していきます. 平家物語で言う, 諸行無常とはこのことです. 今現在生きていることに感謝し, 充実した生活を続けたいです.
参考文献 (原語版)▼
- 皆既月食(2025年9月) | 国立天文台(NAOJ)国立天文台公開・更新日: 2025-09-07アクセス日: 2025-12-01
- 【特集】2025年9月8日 皆既月食 - アストロアーツAstroArts Inc.公開・更新日: 2025-09-07アクセス日: 2025-12-01
- NASA - Enlargement of Earth's ShadowsAlex Young, NASA公開・更新日: 2009-02-02アクセス日: 2026-08-14
- StellariumStellarium公開・更新日: 2025-09-29アクセス日: 2025-12-01
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- 気象庁|過去の気象データ検索気象庁公開・更新日: 2025-09-08アクセス日: 2025-12-01
- 気象庁|過去の気象データ検索気象庁公開・更新日: 2023-10-31アクセス日: 2025-12-01
- 気象庁|台風経路図2025年気象庁公開・更新日: 2025-09-05アクセス日: 2025-12-14
- 日本暦日原典 第五版内田 正男公開・更新日: 2023-11-25アクセス日: 2026-05-04







