小正月の皆既月食
はじめに

月の出と皆既月食の経過 (25枚組, タイムスタンプ付き)
撮影情報 (25 件) ▼
報告に先立ち, 西暦2026年03月03日 (旧暦01月15日, 宣明暦01月14日) の夜の皆既月食観測に当たり, 支えてくださったすべての方々に感謝の意を表します.
西暦2026年03月03日の夜に, 皆既月食が起こりました. 天気予報が発表される前から南岸低気圧を危惧していましたが, 実際にその通りとなったため, (+31.808999, +131.459597) 付近で観測を行いました. 地図上では宮崎県宮崎市「こどものくに」の外周の海岸付近に該当します.
上記の図は, 2026年03月03日に観察できた皆既月食を中心に, 月の出から部分月食終了までの経過を示したものです.
東京科学大学において観測した西暦2025年09月07日夜の皆既月食と同じ機材 (超望遠コンデジのCanon PowerShot SX70 HS, 三脚のVelbon EX-440, 及びポータブル赤道儀のKenko SKYMEMO S) で挑みましたが, 遠征のため重量を減らし, 錘に使う水入りペットボトルを積むことだけは見送りました.
可能な限り天の赤道に平行になるように撮影しましたが, 西暦2025年に比べ角度調整が困難でした.
以下, 月の出, 部分月食開始前, 皆既月食開始前, 皆既月食中, 皆既月食終了後, 部分月食終了後, 15年前のリベンジ, 遠征時の配慮の各章について報告を行います. メモは紙媒体に行いましたが, それを要約・加筆修正したものも示します.
カメラ内部時計の時刻とUTC+09の差は±0秒で, Exifからのオフセットはありません.
月の出
南岸低気圧の名残

ぶよぶよな満月の出
撮影情報 (1 件) ▼
昼頃に宮崎に到着した際には雲が多かったですが, 観察地に到着する頃には晴れ間も多くなりました. それでも東の空に雲が鎮座していましたが, 月が昇る頃には小さくなって流れていきました. 水平線から昇る月は見られませんでしたが, 18時14分50秒のメモによると, 超低空の雲から顔を出した月は赤く暗く, 歪んでいました. すぐに橙色に変わり, 明るさを増したようです. 南岸低気圧の名残なのか, 透明度も大気の安定度も高くはありませんでした. ビーナスベルトにはしっかりとは重ならず, 東京科学大学で観測した2025年09月08日朝の月没を逆再生したような構図となりました.
また, 水平線から離れても大きくゆがんだままに見えました. 低空では不規則に形が変化して見えたため, 南岸低気圧の名残で東空の大気が不安定だったことが考えられます.
18時19分50秒のメモによれば, その時に月は金色に見え, 半影月食の様子は最初から肉眼で分かったようです. ただし, 低空の大気の減光が大きいグリマルディ・クレーター側がより半影の影響を受けていたため, 大気の減光によるバイアスには注意が必要です. それに対して, 西暦2024年03月25日の半影月食は北海道から3件報告が届きましたが, 月食の様子を確認することはできなかったそうです. 当時, 低空の大気の減光が大きいグリマルディ・クレーター側は, 半影の影響を受けた側の反対側 (危難の海側が半影の影響あり) でした. 両者が打ち消しあい, 観測を困難にしたことが考えられます.
薄雲の影響を受けた月

薄雲に入った満月
撮影情報 (1 件) ▼
晴れてはいたものの, 薄雲の領域に当たってしまいました. それでも, 薄雲の中の丸い月は幻想的でした.
18時28分頃に祖母に電話をかけて会話をするとともに, 月食撮影の状況も伝えました.
部分月食開始前
半影月食中の月

半影月食中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
18時38分20秒のメモで月は雲隠れと記しましたが, 雲間からたびたび月が見え, 撮影することもできました.
皆既月食開始前
雲から抜けた後

部分月食中の勾玉状の満月
撮影情報 (1 件) ▼
部分月食が始まる18時50分頃は, 小さいが分厚い雲に覆われ, 部分月食が始まる様子は見られませんでした. しかし, 数分で雲から抜け, 勾玉のような月を楽しむことができました.
19時00分40秒のメモでは, 小麦色, 美しいが不気味と記しました. 宣明暦時代に月食が異常扱いされたことも頷けます. 19時31分20秒のメモでは, 本影部分の月が見えたと記されています. それでも, 西暦2025年09月に本影の明るさ予想が皆既月食開始前後で覆されたことを受け, 明るいか暗いかは判断していませんでした.

部分月食中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
皆既月食直前に4秒露光で撮影しましたが, 本影に深く入った部分を含めて鮮やかに写りました. この撮影により, 西暦2025年09月の皆既月食よりは明るいと感じるようになりました.
皆既月食中
明るかった皆既月食

皆既月食中の満月
撮影情報 (1 件) ▼
20時04分10秒のメモでは, 月の北がダンジョンスケール2.0, 南が4.0, 総合で2.5と記しました. これまでに見た皆既月食の中では最も明るい方です. なお, 皆既月食の開始と終了時間帯を除き, 一貫してほぼ同じ明るさで推移しました.
月齢13日台の皆既月食

皆既月食最大頃の満月
撮影情報 (1 件) ▼
今回は長時間露光でぶれた写真が多かった中, 皆既月食最大頃の月は, 殆どぶれずに撮影できました. この時の月齢は+13dから始まっている通り14日未満です. 満月も 2026-03-03T20:37:53+0900 (月齢=+13d23h36m44s) に迎え, 月齢14日未満でした.
月齢13日台の満月は約14ヶ月周期でまとまって0回から3回現れますが, 西暦2023年11月27日 (旧暦10月15日, 宣明暦10月14日) 以来約27か月ぶりとなりました.
皆既月食と重なることは珍しく, 次回は西暦2029年06月25日で, 南米を中心に今世紀最深の皆既月食を見ることができます. 西暦2022年11月08日 (旧暦10月15日, 宣明暦閏09月14日) は満月の月齢がギリギリ14日を超えましたが, 月齢14日を迎える前に皆既月食が始まりました.
このような満月は十五夜月よりも十四夜月になりやすいです. 現に進朔 (朔が18時以降なら, 朔の瞬間を含む暦日の翌日を朔日にする) のある宣明暦では01月14日の十四夜月に当たりました. 日本では新月時刻は 2026-02-17T21:01:09+0900 で18時以降でしたので, 宣明暦の要請通りの暦日になりました.
さらに, UTC+12の地域では, 新月時刻=2026-02-18T00:01:09+1200, 満月時刻=2026-03-03T23:37:53+1200 となったことから, 朔の瞬間を含む暦日をそのまま朔日にする旧暦でも14日に当たりました.
宣明暦とは違い, 旧暦14日の満月と皆既月食が重なることは極めて珍しいです. 日本では, 西暦1583年から西暦2649年までで, 西暦2127年09月20日 (旧暦・宣明暦中秋前夜) のみです.
皆既月食中の恒星食

皆既月食終了直前の満月
撮影情報 (1 件) ▼
皆既月食が進むにつれて, 橙色の恒星が月から離れていきました. このことから, 恒星食が起こったと考えられます. 肉眼では見られませんでした.
皆既月食終了後
白く高く輝く月

皆既月食終了後, 部分月食中の白い月
撮影情報 (1 件) ▼
21時05分30秒のメモで皆既月食が恐らく終わったと記されていますが, 今回ももれなく境界探しに苦労しました.
皆既月食が終わると, 皆既月食開始前とは異なり, ほぼ真っ白な状態で出てきました. 低空の減光を受けないためと考えられます. 21時28分20秒のメモでは, ターコイズフリンジらしきものも肉眼で見えた図が記されています. しかし, 赤いエリアの隣にある無彩色の帯が青色に見える, 相対的な現象であった可能性もあります. ちょうど腕の血管が青く見える現象と似ているのでしょうか.
21時44分10秒のメモでは, 寒く, 月は白銀や白金に見えたと記されています. 22時03分50秒のメモでは, 本影の部分含めて輪郭が全部見えたと記されています.
22時14分30秒のメモの段階で月は非常に明るく, 読み書きも容易でした. 当然, 移動も撤収作業もしやすい程度でした.
部分月食終了後
夜空を明るく照らす月

部分月食が終了した白い満月
撮影情報 (1 件) ▼
22時17分20秒頃のメモでは, わずかに残った欠け際が円弧状ではなくまっすぐに見えました. 如何なる円弧でも, どこであろうと, 局所的に切り取ると直線に近似できますから, 当然の結果と考えられます.
22時32分50秒のメモでは, うさぎ部分が暗いことで半影月食の様子が分かったと記されています. ただ, 晴天下に限れば, 意外にも高い空よりも低空の半影月食の方が判別しやすい結果となったようです.
花粉の飛散が想定されていましたが, 花粉光環も見られず白い光だったため, 当夜への影響は限定的だったと考えられます. 低空の透明度が低かったのは, やはり南岸低気圧の名残であったと考えられます.
実際のメモ

手書き観察メモ パート1

手書き観察メモ パート2
こちらは満月観察時の実際のメモです. 速筆を優先したため, 判読が困難な文字も多くなっています.
15年前のリベンジ

西暦2010年12月21日夜の月食の記録
撮影情報 (1 件) ▼
今回の宮崎での月食観察は, 793週間前 (約15年前) の西暦2010年12月21日夜 (旧暦・宣明暦11月16日) の月食, 並びに他にも逃した複数月食のリベンジを兼ねています. 当時も南岸低気圧が通過し, 北海道や宮崎県などの限られたエリアで観察できました.

西暦2010年12月21日の絵日記に記録された月食 (日本語)
自身は帰省のため当時も宮崎に偶然いましたが, 当日は雨が降った後にいったん晴れました. しかし, 再び雲に覆われたことで月食観察を諦めてしまいました. さらに再び晴れた後に両親が月食を撮影してくださりましたが, 自身の実績ではないため心残りでした.
当時は小学校進学前でしたので, 気象や旅行に関する知識もなく, 天頼みの月観察スタイルでした. しかし, 現在は気象について考察したり, 飛行機の予約をしたりすることができます.
そのような中で, 早速西暦2010年の南岸低気圧下の月食を超える難関の皆既月食を迎えました. 1週間前から1日前までの天気予報の変更により, 遠征地の変更を余儀なくされました. 今回も宮崎では雲が減ったり増えたりしましたが, 2010年の経験から想定内でした.
結果, 皆既月食前は途中で雲に遮られ, 皆既月食中はぶれた写真になったこともありましたが, 満足に撮影することができました. これをもって, かつて逃した月食の雪辱を果たすことができました.
遠征時の配慮
遠征時は拠点での観測ほど高いパフォーマンスを発揮することは困難です. 従って, 様々な安全策が必要となります.
月食は6時間程度の長時間に及びますから, 周囲に化粧室がある環境が必須です. これは生理現象であり, 天文現象に関係なく観測に直接影響を与えます.
移動時の疲労は侮れません. 長時間歩くコースは, 拠点付近に比べて推奨されません. 公共交通機関が使える環境が望ましいです. また, 事前や事後の食事や仮眠が強く推奨されます.
防寒は必須です. 宮崎の3月初旬の晴天日は, 昼間は暑く, 夜は寒いです. 砂漠の場合は温度差がさらに顕著になりますから, 昼間の高温で高を括ることは危険です. 防寒が不要な時期に月食が見られることは, 寒い時期の月食よりも格段に少ないです.
花粉の季節では, 花粉対策が必要です. 月食観察は長時間に及びます. 花粉に注意が必要な方は, マスクやゴーグルなどの十分な準備が欠かせません.
三脚を置く場所に注意が必要です. どんなに固そうに見えても, 土に三脚を沈みこませて安定させることは推奨できません. 目には見えませんが徐々に沈んでいくため, 撮影中に方向が変わっていきます. アスファルトなどの固い地面を使うか, 木の板1枚を敷いてその上に置いても良いでしょう. 脚の高さ, ひいては赤道儀の方向を微調整できる器具を, 3本脚の下部に取り付けても良いかもしれません.
荷物を増やしすぎると危険です. 撮影機材を大量に持ち込んでも, 運べなければ本末転倒です. プロの撮影に対して発言できる立場ではありませんが, それを除けば, シンプルな構成で挑むのが良いでしょう. 安定用の錘は, たとえ水分補給兼用としても大荷物ですから, 軽量化する方法など, 次回の月食観測までに研究が必要です.
おわりに
今回の皆既月食は南岸低気圧が通過したことで, 日本国内では宮崎県以外のほとんど全ての地域が曇りや雨・雪となり, それ以外では北日本や西日本で見られた地域がかろうじて点在した程度にとどまりました. 次の皆既月食は2028年12月31日夜 (旧暦・宣明暦11月16日) まで空くばかりに, 天体観察をされる方にとっては大変残念な条件となりました. しかも, 直前まで天気予報が安定しなかったのも心残りです.
たとえ皆既月食時に日本の多くの地域が曇りや雨・雪となっても, 同じく南岸低気圧が通過した西暦2010年12月21日夜のように, 北海道は快晴となるなど, 地方単位での大きな晴天域があることが殆どです. 今回は晴天域が県単位しかなく, 台風19号が通過した西暦1997年09月16日夜 (旧暦・宣明暦中秋, スーパームーン) や, 温帯低気圧が通過した西暦2001年01月09日 (旧暦・宣明暦12月15日, スーパームーン) に似た天気分布となりました.
それでも, いずれも九州地方を中心に晴天域が存在したのはせめてもの救いだったと考えられます. ただ, 前後には西暦2000年07月16日夜 (旧暦・宣明暦06月15日) の最深級皆既月食, 西暦2022年11月08日夜の皆既月食・天王星食, 西暦2025年09月07日夜の皆既月食など, 季節にそぐわないほど広域で晴天に恵まれた月食が起きていますから, 贅沢は言っていられないのかもしれません.
人生で初めて皆既月食のために遠征を行いましたが, 遠征ならではの疲労や設備の扱いなどの課題が浮き彫りになりました. 月を撮影される方に限らず, 旅行されるすべての方々にとってこの記事が役に立つことを心から願っています.
参考文献 (原語版)▼
- 皆既月食(2026年3月) | 国立天文台(NAOJ)国立天文台公開・更新日: 2026-03-03アクセス日: 2026-03-07
- 【特集】2026年3月3日 皆既月食 - アストロアーツAstroArts Inc.公開・更新日: 2026-03-03アクセス日: 2026-03-07
- 気象庁|台風経路図1997年気象庁公開・更新日: 1997-09-16アクセス日: 2026-03-07
- どうなる? 皆既月食の日の天気AstroArts Inc.公開・更新日: 2000-07-16アクセス日: 2026-03-07
- 月食ライブ中継-写真レポートAstroArts Inc.公開・更新日: 2000-07-16アクセス日: 2026-03-07
- 皆既月食の日の天気はこうだったAstroArts Inc.公開・更新日: 2001-01-10アクセス日: 2026-03-07
- 特集 2024年3月25日 半影月食/ワームムーン - 天体写真ギャラリーAstroArts Inc.公開・更新日: 2024-03-25アクセス日: 2026-03-07
- 『3年ぶりに皆既月食』Weather Map Co., Ltd.公開・更新日: 2010-12-21アクセス日: 2026-03-07
- 『442年ぶり 皆既月食&惑星食』Weather Map Co., Ltd.公開・更新日: 2022-11-08アクセス日: 2026-03-07
- 『約3年ぶり 全国で皆既月食』Weather Map Co., Ltd.公開・更新日: 2025-09-08アクセス日: 2026-03-07
- 『南岸低気圧で雨や雪』Weather Map Co., Ltd.公開・更新日: 2026-03-03アクセス日: 2026-03-07
- 日本暦日原典 第五版内田 正男公開・更新日: 2023-11-25アクセス日: 2026-05-04







